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Apple Vision Proが空間コンピューティング市場にもたらすインパクト

March 31, 2024

Apple Vision Proが空間コンピューティング市場にもたらすインパクト

単なるテックトレンドではない

Apple Vision Proが米国で発売されてから3週間ほどが経過しました。発売から数日間は「Apple Vision Pro」というワードがX(旧Twitter)のトレンドを賑やかしていましたが、今や落ち着きを取り戻しつつあります。

2017年の創業期より空間コンピューティングの社会実装に取り組んできた弊社としてはこの追い風に乗らない手はありません。有難いことにさまざまなメディアで弊社について取り上げて頂いています。

上記の通り、あらゆるメディアやSNSでこの話題が取り上げられており、「Apple Vision Pro」についてこれまで一度でも目に触れていない方は少ないと思います。

さて、皆さんは「Apple Vision Pro」について現時点でどのような印象や感想を持たれているでしょうか?

  • どうやら凄いらしいけど何が凄いの?
  • Meta Questと何が違うの?
  • VRゲーム以外に何に使うの?
  • 何が便利なの?利便性ってあるの?
  • 5-60万円払って誰が買うの?

といったような疑問を持たれてる方も多いのではないでしょうか。実際のところ、SNSも含めて非常によく見聞きします。

おそらく、上記に対して自分なりのスタンスで明瞭な回答をお持ちの方は、テクノロジーが大好きな方や日常的にAR/VRに触れている方を除いては、稀有な存在ではないかと勝手ながら推察しています。多くの人にとっては興味関心が低いトピックスですので、至極当然のことだと思います。

空間コンピューティング市場のど真ん中にいる私個人の意見にはなりますが、Apple Vision Proの登場はビジネスパーソンであれば無視できないトピックスの一つであり、イチ個人の消費者感覚と切り離して(肯定的であれ否定的であれ)見解を持っていて欲しいテーマだと考えています。

あまり広く知られていないですが、日本国内においても一部の大手企業では既にこの市場に取り組んでいます。市場競争はとうの昔から始まっているのです。

Apple Vision Pro登場、すなわちApple社の本格的市場参入

この記事では、Apple Vision Pro自体の性能についてはほぼ触れていません。技術的な革新性、優れたUI/UX、実体験レビューに関しては、既に多くの方が取り上げていらっしゃる通りです。

Apple Vision ProはApple社から発売された初めての空間コンピューターです。以前より、Apple社は「ARKit(Apple製品に搭載されているiOS向けのAR機能、開発者向けフレームワーク」の提供などに取り組んでいますが、ハードウェアとしての市場投下は今回が初となります。ハードウェア開発企業であるApple社がいよいよ本格的に市場参入したわけです。

私はApple社が本格的に市場参入したというこの事実こそがインターフェースシフトに強烈なインパクトをもたらし、急速な市場成長の号令となると考えています。

今回はApple社の市場参入によるインパクトの要諦を3つにまとめています。

  1. 消費者の技術受容度の向上
  2. 強力なエコシステムによるコンテンツ拡充
  3. 競争激化による進化の加速

(1)消費者の技術受容度の向上

Apple Vision Proがこれまでのヘッドマウントディスプレイとは一線を画したプロダクトであることは間違いありません。特に、そのUXにおいては、空間コンピューティングのデファクトスタンダードとなることを否定できない洗練さだと言えます。初めて体験された方が「iPhoneやMacなどのApple製品を使ったことがあれば、すぐに自然に操作できる」と口を揃えて仰っていることにそれが表れているかと思います。

Appleは過去にiPod、iPhone、iPadといった製品を通じて、新たなカテゴリーの製品を市場に導入し、一般消費者の技術受容度を大きく変えてきました。過去の製品が示したように、Apple社はユーザーフレンドリーなデザインと直感的な操作性で、高度な技術を一般消費者向けに広めることに幾度も成功しています。

弊社では、空間コンピューティングに触れたことがない方々に対してもApple Vision Proを体験いただき、ご意見を頂戴する機会も少なくありません。そんな方々の中で一定割合の方が、仕事で使うわけでもなく、決して安い金額でもないにもかかわらず、「欲しい」と言われることに正直驚きました。(この時期に体験するということはテクノロジーへの興味関心が高いというバイアスは捨てきれないないのですが)
第1世代のApple Vision Proは、$3,500(50万円)という価格でありながら「欲しい」と思わせる力を既に持っているのです。

一般消費者に受容されるための2大ボトルネックである「重量」「価格」は、ムーアの法則が示す通り、軽量・安価な次世代モデルで解消されていくことは言うまでもないかと思います。

Apple社の真髄である卓越した広義のマーケティング力とApple Vision Proが提供する先進的な空間コンピューティング体験によって、この技術への一般消費者の関心と受容度を大きく引き上げることが期待できます。

(2)強力なエコシステムによるコンテンツ拡充

新たなインターフェースの一般浸透のためには、「ハードウェアの普及」と「コンテンツの拡充」の両輪が欠かせません。「ハードウェアの普及」に関しては前述した通り、ブレイクスルーの兆しが見えてきています。

では「コンテンツ拡充」の可能性はどうでしょうか。ご存知の通り、Appleが提供するハードウェアとソフトウェアが統合されたエコシステムは、シームレスに連携し、滑らかなユーザー体験を実現しています。それと同時に、教育、エンターテインメント、ライフスタイル、仕事効率化、ヘルスケアといった多様な分野におけるアプリケーションを生み出す開発者コミュニティ及び、独自の開発フレームワークを既に持っています。

弊社もその開発者コミュニティのひとつですが、我々ディベロッパーがApple Vision Proないしは次世代モデルに適応したアプリケーションを積極的に開発するかどうかがApple社の戦略実現においての重要なクリティカルパスです。その観点では、以下2つのポイントによりコンテンツ拡充の裾野を大きく広げています。

数十万ものiPad / iPhone向け既存アプリのApple Vision Pro対応

iPad / iPhoneアプリは、Apple Vision Pro向けのAppStoreで自動的に配信される仕様となっています。iPadOSとiOSで利用可能なほとんどのフレームワークはvisionOSにも含まれているため、特別な変更を加えることなく、visionOSで実行できます。visionOSに最適化されているわけではない、という前置きは必要ですが、Apple Vision Proのユーザーはそれらのアプリケーションを利用可能な状態というわけです。

Swift対応とUnity連携

SwiftはiOSアプリ開発者にはすでに馴染み深い言語です。Apple Vision ProがSwiftに対応することで、多くのiOSエンジニアがvisionOS向けアプリ開発に容易に参入できます。Unityとはゲーム開発のためのエンジンで、その領域では世界シェアNo.1です。そして、AR/VRのソフトウェア開発にも対応しており、広く利用されています。UnityとvisionOSは連携しており、他のXRデバイス向けに開発したUnityベースのアプリケーションをvisionOSに移植することを可能としています。つまりこれらは、空間コンピューターに最適化されたアプリケーションの両・質を引き上げることに寄与します

上記の通り、ディベロッパーがvisionOS向けアプリ開発に参入しやすい土壌が形成されています。

Apple社としては、iPhone第1世代の登場時にコンテンツ不足が課題となった同じ轍は踏まないように万全を期しているわけです。実際、2024年2月現在で、Apple Vision Pro用に最適化されたアプリ数が1,000を超え、App Storeで利用可能な互換性あるアプリ数が150万件以上であることが明らかになっています。

この勢いを止めないことが重要ですが、第1世代としてのプロダクト完成度、発売後の市場/消費者の反応からして、来年2025年に登場するであろう次世代モデルへの期待値が高まっています。Apple Vision Proの初年度出荷台数が限定的になることを織り込み済みですから、その点からして「コンテンツ拡充」の不安材料は少ないように感じます。

(3)競争激化による進化の加速

言うまでもなく、Apple Vision Proの市場投入及びApple社の本格的市場参入は、空間コンピューティング(AR/VR)市場の競争を激化させます。「ハードウェア普及」「コンテンツ拡充」について前述してきましたが、その両面において競争が激しくなり、結果として、テクノロジー進化及び一般社会浸透が加速すると考えています。

現在、世界で最も利用されているヘッドマウントディスプレイ(HMD)であるMeta Questシリーズの前進「Oculus」を2014年に買収し、約10年の歳月をかけて、巨額の研究開発費を投じたMeta社の功績は非常に大きいです。Meta社はコロナ危機後の人員整理(大量のレイオフ)、金融市場の引き締めによる、圧倒的な向かい風の中でも、投資継続をしています。GAFAM以外のXreal社 / TCL社といった中国資本勢も危機感を抱いているのは間違いありません。

歴史が語るようにインターフェースを握るプラットフォーマーは2-3社に収斂していくため、米国・中国の巨大資本を中心とした各社が、その座を勝ち得るために、研究開発の手を緩めることが出来なくなった(もしくは損切りすることを余儀無くされた)わけです。その競争の恩恵を受けるのは一般消費者です。より高品質でより安価なテクノロジーの享受を早めてくれるでしょう。

もちろん、競争が激化するのはディベロッパーサイドでも同様です。大手Slerなども徐々に参入し、淘汰されていくでしょう。市場規模も右肩上がりに拡大する中、コンテンツ開発の原資総額が増大することは、コンテンツ/サービスの質量を引き上げることが期待できます。

これらの競争は、ハードウェア・コンテンツ両輪における市場成長を促進し、新たなビジネスチャンスを生み出し、そのスピードを加速させる可能性を持っています。

企業はどのように向き合うべきか?

では、Apple Vision Proという新たなインターフェースの登場に対して、日本の企業はどのように向き合うべきでしょうか?

弊社は、国内リーディングカンパニーと共に空間コンピューティング技術のR&D及び事業開発を行っている会社であり、その特性上、さまざまな大企業の皆さまとディスカッションする機会が多くあります。この未知数なビジネス機会に持続的に取り組み続け、一定の成果を出している企業の特徴として「長期、積立、分散」という共通点があるのではないかと考えています。金融投資の三大原則と同様です。(金融投資のそれとは構造や背景は異なります。)

短期ではボラティリティが大きく、中長期では市場成長の可能性が高いこの領域では、

  • 長期的な視点を持ち投資継続しつづける前提で
  • 取り組みによって得られたアセット(知財、人材、データ等)を積み立て、
  • 事業投資の矛先にメリハリをつけてリスク分散する

という向き合い方が有効ではないでしょうか。逆に、「トレンドに乗じ、数千万円を投じてメタバース空間・体験を外部委託で構築したが、出口戦略が不在で、社内で失敗の烙印を押される」的な事例が大企業においても直近2-3年間で多く見られたのではないかと思っています。(決して、メタバースという概念を否定しているわけではありませんので悪しからず)

また、投資規模が事業成長を決定づけるビジネスモデルでない限りは、取り組み開始時点で大きな予算を確保する必要はありません。前述の「長期、積立、分散」という考えに習えば、むしろサステナブルな予算設計にすべきです。

数千万円の予算獲得はすぐに出来なくとも、専任チームもしくは個人にミッション設定してプロジェクト化することは難しくないのではないでしょうか。そのプロジェクトでの検討を以て「いつどのような状況になれば、事業参入・テクノロジー導入する」といったような見解をぜひ持って頂きたいと考えています。

iPhone/iPadがそうであったように、僅か数年で毎年数千万台が出荷されるような急速な進化を遂げる可能性は十分にあります。日本の大企業の力は今でも強大です。ビジネスにおいては参入タイミングが極めて重要ですが、「やらない後悔よりやった後悔」「遅すぎるよりも早すぎる」の精神で、ぜひ向き合って欲しいと思います。

そして、その第一歩として、まずはApple Vision Proを体験することをお勧めします。(弊社でも体験会のご案内をしています。ぜひご連絡ください)

百聞は一見にしかずです!

さいごに

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弊社は空間コンピューティングの社会実装に取り組む会社です。Apple Vision ProをテーマにしたR&D/事業開発に興味関心のある方、お気軽にご連絡ください!

執筆:市川 翔馬

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