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新たな電子書籍のかたち?|Apple Vision Proと出版物の未来【前編】

December 26, 2024

新たな電子書籍のかたち?|Apple Vision Proと出版物の未来【前編】

先日、MESONメンバーが"理想の電子書籍"をテーマに制作したプロトタイプがXで反響をいただきました。

今回はこの投稿をきっかけに"新たな電子書籍のかたち"について、制作者であるプランナーのガクさん(@oji_chang)にお話を聞いてみました!

インタビューを通じて見えてきた「検索性」「一覧性」「無作為性」といったキーワードを基に、驚きを生み出すものづくりの思考に迫ります。


📝 今回話してくれる人

清水 岳 / Gaku Shimizu

早稲田大学・大学院で建築を専攻(古谷誠章研究室)。卒業後、設計事務所で設計と工事監理を担当。2021年からメタバースを活用した個人制作を開始。XR CREATIVE AWARD 2022で個人部門優秀賞、WIRED CREATIVE HACK AWARD 2023でファイナリストに選出、TOKYO NODE “XR HACKATHON” 2023でグランプリ。2023年5月にMESONに入社。


📚 理想の電子書籍を思い描いた


ー まずはプロトタイプについて聞かせてください。

「こんな電子書籍体験があったらいいな」という発想から、「本を所有する」「読む本を選ぶ」といった、本を読み始める前の体験に焦点を当て、Apple Vision Proのプロトタイプアプリとして作りました。

スマートフォンの電子書籍アプリでは味わいにくい、本の大きさや厚みを表現し、本棚に飾るなどフィジカルな本の魅力も取り入れつつ、バーチャルならではのレイアウトに切り替えが瞬時にできる体験を目指しています。

ー Apple Vision Proとは、どのようなデバイスなのでしょうか?

2024年6月28日、Appleが開発する全く新しいデバイスApple Vision Proが日本でも発売されました。Appleはこの Vision Proについて、ホームページで「空間コンピューティングの時代が始まります。」と表現しています。

Apple Vision Proは、高解像度ディスプレイと広い視野角、12台のカメラと5つのセンサーが高度に統合されており、フィジカル空間にバーチャルオブジェクトを違和感なく融合させる技術を備えています。

その高精細さによって「実際の本棚に馴染む」「実際の本と見分けがつかなくなる」といった感覚を今回実現できたのではないかと思います。


💬 本好きの方々にアイデアが届いた


ー 反響はいかがでしたか?

想像していた以上に反響がありました。本という存在は、誰しもの興味のフックになっているのだなと改めて感じました。

ゲンロンの東さんの引用リポストをきっかけに、文芸や人文、歴史系などの分野の専門家の方々にも見ていただけて。

本が好きで、本の文化を守りたいという気持ちを持っていたり、新しい出版の可能性を感じた方々が反応してくれたことが印象的でした。

ー 特に印象に残ったコメントはありますか?

たくさんありますが、本とのふとした出会いが生まれそうといったコメントや、カバーの色合い順やサイズ順で並べられそうといった、ソート方法の可能性に言及して下さった引用リポストはまさに狙い通りでした。

現状の電子書籍だけでは乗り越えられない問題と、フィジカルの本の良さをうまく繋ぎうるのではと考えていて、それぞれの良いとこどりが出来ればという発想が伝わってよかったなと感じています。


🔍 検索性 : 物理本のメタデータ


ー 本の「探し方」について詳しく教えてください。

テキストだけを使った従来の検索方法とは違う、本との偶然の出会いを生むような本の探し方を含めて”検索"と捉えています。

今回のプロトタイプでは本の大きさや厚み、装丁のデザインといった情報をデジタル空間に再現し、物理本と同じような存在感・フィジカルな感覚を引き出せるようにしました。

左:Kindleアプリ / 右:MESONの本棚

これは、単に「所有感」という感情的な要素を求めた結果ではなく、物質としての本の形が、その存在を直感的に捉えるために合理的な機能を果たしているからです。

本の装丁や大きさ、厚みをメタデータと捉えることで、それらがふと目に留まる「フック」となり、何気なく本を探すような体験を可能にしています。たとえば、平積みの本の位置をぼんやり覚えていて、無意識に手に取ることもあります。一般的な定義とは異なるかもしれませんが、これも”検索”の一種と考えています。


📖 一覧性:重力から解放された並べ方


ー 魔法的な体験にSF映画を彷彿とさせるという声が多くありました。

実は特定の作品の世界観を参考にしたわけではありません。さまざまなSF(例えば「アイアンマン」や「マイノリティ・リポート」など)でよく登場する"多くの情報をばっと並べて見る演出"を、UXを考える上で意識していました。

初期スケッチ

情報に”奥行きを持たせて立体的に表示”できるのが、空間コンピュータならではの普遍的な価値だと考えています。Kindleアプリの画面枠の制約や、重力からも解放された本のレイアウト。今回はそんな新しい本の並べ方を提案してみました。

新しい情報の並べ方は、情報との接し方そのものを変えると考えています。たとえば、現実の本屋で「遠くに漫画コーナーが見えるが、具体的な本の内容までは分からない」といった感覚です。こうした情報の捉え方は、平面の画面ではなかなか再現しきれないものです。

新しい本の並べ方

最終的にエンジニアのエドさん(@edo_m18)がアニメーションの設定などを良い感じにしてくれて、魔法のような印象を与える体験に仕上げることができたと思います。


💡 無作為性:ラフさが生み出す偶然の出会い

ー 体験設計をする際、建築系の経験が活きていることはありますか?

建築をやっていた頃から『ラフさを受け入れる』ことが空間にどんな影響を与えるかを考えることが多く、その発想が今回のプロトタイプにも活かされています。

たとえば、ただ整然と並べるのではなく、あえて本を適当にしまったり、ランダムに配置することで、ふとしたタイミングで新しい見え方に気づくことができるような設計を心がけていました。

この考え方は大学時代の恩師である古谷誠章さんが1995年3月に実施された「せんだいメディアテーク」のコンペで出された案が下敷きになっています。コンペとしては二等だったため実現はしなかったものの、もうすぐ30年が経つ今もなお参照される先駆的なアイデアでした。

▼古谷誠章 - ミライのタネ「せんだいメディアテーク」:私の建築手法
https://www.tozai-as.or.jp/mytech/04/04_furuya04.html

ヴァーチャルなメディアが発達すればするはど、実際にそこへ行かなければいけないリアルな空間や人との直接的な出会いが、よりいっそう大事になります。昨日までの自分が知らなかった自分に出会うための場所、つまりそこに行くとそれまで関心すらもつことがなかったものに偶然出会ってしまう、無数にすれ違ってしまえるような場所がメディアテークと呼べるのではないかと考えました。

https://www.tozai-as.or.jp/mytech/04/04_furuya04.html

Windows95が登場する直前に、現在のデジタル時代を見据えた新しい図書館像を提示していました。本の管理はすべてRFIDタグによるデジタルな管理に移行すると予測し、その管理システムを前提として、借りたらどこの棚にでも自由に返して良いという仕組みです。

そうすることで、興味をもった本の隣に全く異なるカテゴリの本が並んでいるような状況が生じ得ます。たとえば人文系の隣に分野違いの動物系の本があったりもする。リアルな場所の必然性を考えたときに、そうした偶然の出会い(=セレンディピティ)をつくることが本質だという提案でした。

学生時代、そうしたセレンディピティを生み出す些細なきっかけのことを「端緒(たんしょ)」と呼ぶと学びました。

突き詰めれば建築は、それまで無関係であった人同士を思いがけず遭遇させるための端緒として働いている。

https://www.studio-nasca.com/the-beginning/

振り返ると、建築に携わっていた頃、「寝室」や「ダイニング」といった空間も、その名前どおり「寝る」や「食事をする」場に限定するのではなく、そこにいる人がある程度自由に使えるような考え方を良しとしていました。

MESONに入って、つくる対象がアプリに変わってからもそれは同じでした。

ユーザーの自由度や、作り手が想像していない使い方が生まれるような余白を大切にしつつ、今回の本棚のような「端緒」のあり方をこれからも模索していければと思っています。

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