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空間コンピューティングで拡がる、コミュニケーションの未来とは。MIXI CTO 吉野氏対談
September 30, 2024
2024年6月にMIXIからの資金調達を発表したMESON。
「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」というパーパスを掲げるMIXIと、空間コンピューティングで人々の「まなざしを拡げる」ことを目指すMESONが、2社連携の元で目指す未来とは。
MIXI CTO 吉野純平氏と、MESON CEO 小林、CTO 比留間の3名で、人々のつながりとコミュニケーションの未来を語る。
■新しい技術はまず体験。Apple Vision Pro購入の背景
――まずは、MIXIの事業内容について教えてください。
吉野氏:MIXIは、コミュニケーションを豊かにすることを目指している会社です。ライフスタイル、スポーツ、デジタルエンタメ、投資などの領域で事業を展開しており、具体的にはスマホゲーム「モンスターストライク」を運営するほか、スポーツ関連では公営競技のインターネット投票サービスの運営、プロスポーツチームのオーナーシップなど、幅広い活動を行っています。
――ありがとうございます。今回、Apple Vision Proを購入されたとお聞きしましたが、最初にその情報をキャッチしたのはいつですか?MIXIとして先端技術のリサーチは以前から行っていたのでしょうか?
吉野氏:Appleが公式に発表したときですね。社内でもすぐに話題になりました。
自分の中では、「まずは触ってみたい」という気持ちがとにかく強かったですね。これがきっかけで、何か面白いことが起きればいいなと。現時点では事業に直接的な関係はありませんが、こういうデバイスは体験してみないと何も分からないじゃないですか。なので、まずは体験してみようと思いました。
小林:いくら調べても、実際に体験しないとわからないことが多いですよね。
吉野氏:XRや空間コンピューティングデバイスは特にそうですよね。実は社内にも自主的にARデバイスなどを楽しんでいる社員がいるんですよ。
MIXIは「心もつなごう。」というタグラインを掲げており、いいものが自然に広がっていくことを目指すものづくりをしているので、こういった技術に関しても、素直な驚きや感動が社内に広まっていくのは良いことだと感じています。
比留間:他にも似たようなデバイスを購入されたことはありますか?
吉野氏:そうですね、色々あります。XR系のデバイスだと、個人でXREALを購入しました。
XRに限った話ではないですが、元々個人的に回路図を書いたり、ガジェットを自分で組み立てるのが好きで、キットを買って作っていたりすることもあります。最近は、既製のモジュールに周辺回路をつけるなど自分で色々とカスタマイズしていますね。
小林:技術に詳しい方は、自分で作り上げることが好きという人が多いですよね。私たちMESONでも、ゼロから作り上げることに楽しさを見出しています。比留間は物理エンジンを一から作らないと気が済まないと言っていたり(笑)
比留間:そうなんです(笑) 時代が進むにつれて技術が進化し、使うのが簡単になってきていますが、その裏側を理解して自分の言葉で語れるようにすることが大切なんじゃないかと思っていて。だからこそ、基礎からしっかりと把握しようとしています。
Unityを使うと物理の部分が一番楽にできるんですが、だからこそ物理を学ぶというか。そういう価値観の元でエンジニアリングを行っているので、僕がエンジニアの育成を担当するときはそういうことも伝えるようにしてます。
吉野氏:わかります。車輪の再発明だと言われてしまうかもしれないけど、自社としてこだわりたい、またはこだわるべき部分ってありますよね。そういったこだわりは自社の思想や哲学、個性にも繋がると思うので大切にしています。
――Apple Vision Proを購入されて、実際に体験してみていかがでしたか?
吉野氏:一番驚いたのは、ハンドトラッキング操作と、その精度ですね。自分たちもものづくりをする側なのでわかるのですが、ここまで誤検知が少ないというのはすごいです。カメラが下向きについていて、手を前に出さなくても操作ができる。発想がすごいと思いました。
比留間:ユーザー体験にこだわるAppleならではのデバイスですよね。初めて体験する人でもわかりやすく、自然に使い続けられるような体験デザインになっていると思います。
吉野氏:やはり、Apple Vision Proはこれまでに出たXRデバイスとは違うものですか?
比留間:そうですね。他のARグラスや過去のデバイスと比較すると、かなり開発者が意図した体験設計(UX)を反映しやすくなったと思います。今までは技術力の限界もあり、ハンドトラッキングがしたいのに目の前にある観葉植物を手と認識してしまったりと、デバイスの制約や精度の悪さが体験に影響していました。Apple Vision Proはそういったことがほとんどありませんね。
小林:あとは、視界の自然さも特徴的です。あまりに自然なので、カメラ越しの映像だと気付かない人もいるくらいなので…。流石に肉眼よりはApple Vision Proを通した映像の方が解像度が荒くなってしまいますが、それを「黒いレンズ(前面の液晶)を通して見ているから、解像度がちょっと荒くなっている」と勘違いする人がいるんです。本人の理解としては、水中ゴーグルをかけているような感じ。これはなかなか印象的なエピソードでした(笑)
一同:(笑)
吉野氏:それくらいの自然さがあるということですよね。たしかに、デバイスをかけている感覚はあんまりないです。
■空間コンピューティングで拡がる、コミュニケーションの未来
――空間コンピューティングが人々のコミュニケーションにもたらす変化についてはどうお考えでしょうか。2社それぞれの意見を聞いてみたいです。
小林:自分としては、Apple Vision Proの『Spatial Personas』機能に大きな可能性を感じてますね。『Spatial Personas』は自分の顔をApple Vision Proでスキャンしてリアルなアバターを生成し、離れた場所にいる人とも実際に対面している感覚でコミュニケーションを取ることができる機能です。『Spatial Personas』を使って、複数人でのミーティングを行うと、実際に目が合っているような体験ができるのですが、これはコミュニケーションの質を大きく向上させると感じました。
比留間:しっかり目が合うというのはすごいですよね。オンラインでも、目を合わせて会話をすることで、電話やビデオ通話より多くの情報や感覚を共有している実感がありました。
吉野氏:Apple Vision Proが既に優れたデバイスであることは前提ですが、もっとセンサーが増えて人間の感情がトラッキングできるようになると、コミュニケーションが今よりもよりリアルに感じられるようになるんじゃないかと思っています。例えば、テンションが高まっていることが相手に伝わると、今まで以上に効果的なコミュニケーションが可能になるんじゃないかと。
小林:確かに、空間コンピューティングによって、物理的な壁を超えたり、今より豊かに感情を表現することができるようになったら、コミュニケーションの解像度が上がると思います。
例えば、車のクラクションやウィンカーって、それが「感謝」を伝えているのか「怒り」を伝えているのかわかりにくいじゃないですか。ただ、空間コンピューティングが普及することで車の上に絵文字を表示するなどして、もっとコミュニケーションを豊かにできるかもしれない。今までの物理的な制限を超えて、より解像度高く、シームレスに感情を伝えられるようになる未来が来るかもしれません。
比留間:そういえば、会社のメンバーで寝る前に自宅から『Spatial Personas』で集まって、焚火を囲んでゆったりチルする…みたいなこともやりましたよね(笑) あれはよかったな。
吉野氏:温かいコミュニケーションが生まれていて、すごくいいですね!
Apple Vision Proで懐かしい遊びもしてみる実験
— ARおじさんᯅ / MESON CEO (@AR_Ojisan) April 5, 2024
Spatial Personaは手の動きも同期されるので、こういう身体性を伴う遊びやコミュニケーションもオンラインでできちゃう
これはもう本当にオンラインだけど対面で会っていると言ってもよいと思う
ちなみにこの遊びの名前は知らない笑 pic.twitter.com/M3rY1sNhuq
『Spatial Personas』の体験動画
――今後、空間コンピューティングで生まれる新しいコミュニケーションに向けて、具体的に取り組んでみたいチャレンジはありますか?
吉野氏:MIXIはスポーツ領域の事業に携わっていて、私自身もスポーツ観戦が好きなんですが、自宅で試合の中継を見ている時に、周りのサポーターの熱量を感じられるような体験を提供できたらいいなと思いますね。その中でも、ポジティブな感情をより強く感じ取れたらいいですよね。
小林:「感じる」というのは一つのキーワードかもしれませんね。今のインターネットやスマートフォンでも「繋がる」、または「知る」ことはできるけど、「感じる」ことはまだできない。我々が開発した天気体感アプリ『SunnyTune』も、天気情報を知るだけではなく、「感じる」ことにフォーカスしています。今までの技術で繋がったり、知ることができたものをどうやって感じられるようにしていくかは一つの方針としてあるかもしれません。
比留間:私個人としては、Apple Vision Proの空間ビデオや写真を使って、家族の成長やつながりを感じられるコンテンツを作りたいですね。自分の子供はもう大分大きくなってしまいましたが、子供が小さいうちに空間ビデオや写真を記録しておいて、後で家族で見返すことで、家族の絆が深まるような体験ができれば素敵だと思います。Apple Vision Proの空間ビデオや写真は、そこに流れている空気感ごと保存できるような気がしていて、そこをアプリケーションやサービスとして作っていけたら面白そうだなと。
吉野氏:昔は写真もずっと静止していないと撮影できなかったですが、カメラ、スマートフォンの登場で写真の残し方も変化し続けていますからね。空間コンピューティングでビデオや写真の未来に残せるデータもまた変わっていくのかもしれません。そうしたデータから生まれるコミュニケーションやつながりというのもありそうです。
――最後に、MIXIはMESONに出資を行っていますが、そういった関係性も踏まえて今後に向けての意気込みをお願いします!
吉野氏:我々も空間コンピューティング技術に関して社内で個人的に研究している人はいるものの、組織的な知識を持つにはまだ至りません。こういった状況で、MESONのように深い知見を持ち、数多くのプロジェクトを進めている強いパートナーがいるのは心強いですね。これからも、良き相談相手として、共に新しいコミュニケーションの形を作っていきたいです。
小林:我々も、技術革新の中で新しい発見があれば、その都度連携しながら進めていければと思っています。
比留間:お互いに刺激を与え合いながら、成長していけるといいですね。
――本日はありがとうございました。今後の展開が楽しみです。