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XRハッカソンイベントでグランプリを受賞。「都市×XR」に向き合って見えた可能性
October 5, 2024
XRハッカソンイベント「TOKYO NODE “XR HACKATHON” powered by PLATEAU」に、MESONのXRエンジニア 安藤正仁と、ディレクター 清水岳が参加し、計28作品のなかからグランプリを受賞した。
森ビルと国土交通省の都市3D化プロジェクト「PLATEAU」 が共催し、虎ノ門ヒルズステーションタワーに拠点を置く「TOKYO NODE LAB」が主導した本ハッカソン。お題は、虎ノ門ヒルズを中心としたエリアを舞台に、XRのアプリケーションを作るというもの。
その中で安藤と清水が開発したのは「都市における身体性」をテーマに、虎ノ門ヒルズ周辺の施設やバーチャルコンテンツの場所をXRで表示し、その視点を一人称から俯瞰に切り替えられるアプリだった。
今回はその受賞作品「TORANOMON bird's eye view」に込めた思いや、発想のプロセスを聞いていく。
■業務以外で「ゼロから作る」機会を求めて参加
――まずは、ハッカソン参加と、チーム結成のきっかけを教えてください。
清水:MESONの同僚が社内Slackで開催情報を流してくれて、存在を知りました。そこで、以前社内のハッカソンでもチームを組んだことがあり、ゲームの趣味も合う安藤さんを誘って参加したんです。また一緒にやりたいと思っていて。
安藤:僕もSlackで知って気になっていたので、岳さん(清水)に誘ってもらったのが後押しになりました。チーム名の「LUDENS」は「遊ぶ人」という意味で、僕たちが好きなゲームスタジオのKojima Productionsのシンボルにもあやかって名付けました。
清水:今回は社外の活動だったのであくまで遊びである、と。MESONにも「アソビをつくる」というバリューがあって、遊びの精神は大事にしたかった。僕がなぜこのハッカソンに参加したかと言うと、業務のプロジェクト以外でも「もっと好きなものを好きなように作ろうよ」とMESONのメンバーに向けて発信したかったんですよね。
安藤:たしかに、業務だとゼロから作る機会は少ないですよね。僕は、最初はラフな感じではじめたものの、オープニングデイで集まった参加者たちを見て熱が上がった気がします。
■「TORANOMON bird's eye view」誕生までの思考
――グランプリを受賞した「TORANOMON bird's eye view」はどのようなアプリでしょうか。
清水:街中でスマホのカメラをかざすことで、位置情報やバーチャルコンテンツの情報を取得でき、さらに視点を一人称から俯瞰、つまり空からの視点にシームレスに切り替えることができるアプリです。
この作品のテーマは「都市における身体性」です。東京は建物が巨大で見通しが悪く、地下鉄での移動では周りの環境を把握しづらい。なので、目的地に行くときはGoogleマップのナビゲーションに頼るわけですが、ルート通りに動くワープのような移動になりがちです。興味のある施設やイベントが近くにあっても、通り過ぎてしまっているかもしれない。
そこで、XRによって都市の身体性を取り戻すことで、周囲を知覚できるようにして街歩きを楽しくできないか、と。実は森ビルの街づくりにも、身体性を感じられる空間づくりの試みがある。それをXR技術でさらに大きく拡張することを目指しました。僕が建築家出身なので、都市に対する課題に注目しやすかったこともありましたね。
安藤:バックグラウンドが生きたテーマですよね。京都出身の岳さんが、京都の街の身体性の高さの話をしてくれたことも印象に残っています。京都は建物も低く街を見渡しやすい。道が碁盤の目になっていて、比叡山を目印に方角もわかるので身体性が高いんですよね。対して、東京は身体性が失われていて、虎ノ門付近はそれが顕著です。
オーニングデイのあとに虎ノ門を散歩しながら、僕が気になったことを岳さんに質問して建築の知見を教えてもらったり雑談したりしたのが、アイデアのもとになった気がします。
清水:とはいえ、最初は「視点を切り替える」というカメラの技術を試したいという興味が先にありました。NeRF(Neural Radiance Fields)という技術を使った面白い動画が社内Slackで共有されて、それを使って何か作りたいとMESONのメンバーでも話していました。
また、僕らが好きなゲームにも視点を切り替える表現があって。「Watch Dogs」というゲームでは、プレイヤーが監視カメラをハッキングしてその視点を持つことができるんです。「これをやりたい」とずっと話していましたね。
安藤:ワイヤーフレームやノードなど、技術的な表現においてもWatch Dogsの影響をかなり受けています。
■テーマに深く向き合うMESONの強みが生きた
――今回のハッカソンにおいて、MESONらしさが出た部分はどこでしょうか。
安藤:MESONがプロジェクトを進める時にも、パートナーやクライアントの背景・課題に向き合うんです。その題材への向き合いを徹底的にやるのがMESONの特徴。今回で言えば「虎ノ門という街」を深掘りした成果が作品に込められました。
そこに、岳さんの建築というバックグラウンドがあったことがよかった。僕は純粋に疑問を抱いてあれこれ質問するタイプなので、それに答えてもらうことで都市というテーマを深められたと思います。
清水:今回はたまたま都市というテーマが僕のバックグラウンドと近かったんですが、MESONはその他にも哲学や音楽などさまざまな領域に専門性を持ったメンバーがいます。違うメンバーがやっていたら、また違う切り口で虎ノ門を見ていたかも。
安藤:その場合もそれぞれの良さが出ますよね。「都市の身体性」というワーディングや文脈をどこまで伝えるかはギリギリまで悩みました。いい作品を作っても謳い文句次第で捉えられ方が変わります。今回のハッカソンのテーマと審査員を鑑みて、プレゼンの表現にもこだわって。その結果グランプリをいただけたのかなという感覚です。
――審査員からはどんな反応がありましたか。
清水:森ビルの杉山(央)さんは、都市開発の中で身体性の課題を感じていらっしゃったようで「たしかに都市が高密度化して立体化すると、どこに何があるかわからない」と。その問題を技術で解決しようとアプローチした点を評価してもらえました。
――今後このアプリをアップデートしていく予定はありますか?
安藤:審査員の方も気にされていたのですが、このアプリは技術的に難しいことをやっている部分があって。自分の位置を把握する機能を実現するために、 ImmersalとGeospatial APIという2つのソリューションを組み合わせているんです。この2つをシームレスにつなぎ、完璧に制御するまでは至っていない。ここは今後取り組むべき課題で、やりきりたいと思っています。
あとは、虎ノ門だけでなく、MESONのある恵比寿周辺でも使えるようにして、MESONのパートナーさんにも見てもらいたいですね。
清水:そうですね。都市の身体性は東京において普遍的な問題なので、森ビルさん以外にも課題感を持っている企業はある。実際、他のプロジェクトでこの話をしたところ共感してもらって、近いテーマに取り組んでいるんです。今回のハッカソンで終わらずに、バリエーションを拡げていきたいなと思います。
安藤:ハッカソンでは都市という現実体験におけるソリューションっぽい位置づけにしましたが、もっとゲームやバーチャルに寄せることもできそうです。
■面白い世界を作って、ほしがらせる
――今回ハッカソンに参加して得た発見はありますか。
安藤:普段のプロジェクトではクライアントのやりたいことに沿って考えるので、視野が狭くなりがちでした。今回は「都市」という大きめの題材に向き合ったことで、もっと視野を広く持ってもいいなと思うことができました。お客さんからの要望だけに集中せず、一度俯瞰して見るというか。これは都市以外のジャンルでも同様で、題材への向き合い方の学びを得ましたね。
清水:ディレクターとしていつも意識しているのは、クライアントの「これをやってほしい」という要望が必ずしも課題解決に結びついていないこともあるということです。オーダーをそのまま遂行するのではなく、その題材にちゃんと向き合うことが大事だということは、改めて感じました。そうしないとMESONが目指す「まなざしの拡張」はできないと思っています。
安藤:岳さんは「ハッカソンならではだな」と感じたことはありましたか?
清水:思考は基本プロジェクトを進めるときと同じで。ただ、プロジェクトによっては、向き合った末に「このソリューションはXRではないのでは?」という結論になることもあるし、クライアントに正直にお伝えすることもあるんですよね。
でもハッカソンでは最終的にXRのアプリをつくることはマストなので。アイデアから逆算して都市の身体性の問題と結びつけたのは特異だったかもしれません。
安藤:たしかに。とはいえプロジェクトをやっているときも、MESONとして全くXRをやらないという選択にはあまりならない。だからこそ本来は課題を見極めて「なぜXRなのか」も深く掘り下げるべきなんですよね。業界初期よりはXRが普及した今も、引き続き大事だなと改めて思います。
――最後に、ハッカソンを経たお二人の今後の展望や挑戦を教えてください。
安藤:グランプリをとったことでプレッシャーも生まれましたが(笑)、またこういう機会があれば挑戦したいです。
今回の作品は作っただけで終わらずに、評価いただいたことで、自分たちの空想の課題ではないと自信を持てた。プロダクト化の可能性を実感できたので、いずれそこまで目指したいですね。
清水:ユーザーのニーズを探るよりは「作っちゃってほしがらせる」ことが大事だと思っていて。これは普段の業務だと難しいので、今回はいい機会になりました。また、当初の目的だった、業務以外でゼロから作る活動を、MESON社内に啓発できたと思います。
安藤:その影響は確かに波及していて、これをきっかけに最近、エンジニアのなかでハッカソンの情報をリスト化して共有しているんですよ。
清水:依頼を受けた業務だけに取り組んでいると、MESONが理想とする世界にはなかなか近づけない。なのでこれからも勝手に作って、社内外に影響を与えて、そこから仕事になったらうれしいです。面白い世界を勝手に作って提示していくことを続けていきたいと思います。
安藤:たしかに。皆がApple Vision Proをほしがるくらいのアプリを作っていきたいですね。
――お二人とも、ありがとうございました!