- Insight & Opinion
- Partners
- Market
空間コンピューティングは現実社会にどう浸透するか?XREALとMESONの視点から
July 2, 2024
2024年6月、株式会社MESONは、空間コンピューティングデバイス「XREAL」シリーズを開発する日本Xreal株式会社の公式エバンジェリストに就任した。
今世間を賑わせている空間コンピューティング技術はこれから先、実社会にどのようなインパクトをもたらしうるのか?
日本Xreal株式会社 代表Joshua Yeo(ジョシュア・イェオ)氏と、当社代表の小林佑樹が、空間コンピューティングの可能性を語る。
■XREALとMESON、それぞれの立場と空間コンピューティング
――まずは、お二人が空間コンピューティングに携わることになった経緯と、現在の活動内容について教えてください。
写真左から 日本Xreal株式会社 Director Joshua Yeo(ジョシュア・イェオ)、MESON代表 小林佑樹
小林:大学・大学院でエンジニアリングを学んだあと、卒業後にMESONを立ち上げました。現在は、空間コンピューティングを型破りなスピードで世界に拡めるべく、さまざまな企業と新しい空間コンピューター向けアプリをつくったり、空間コンピューティングの日本コミュニティを盛り上げる取り組みをしています。
ジョシュア:私は以前台湾のVR企業の韓国ビジネスパートナー会社で働いていて、その市場を開拓する中で、XREALと出会いました。
当時、さまざまなVR企業とコミュニケーションする中で、「VRの次はARが来る」と確信していたんです。そこで2019年に開催されたCES(Consumer Electronics Show)でXREALの創業者で代表であるチー氏と会った際に「XREALの世界的な展開に協力したい」と話したところ、XREALの1人目の海外営業としてジョインすることになりました。現在は日本だけでなく、韓国市場展開も担当しています。
小林:ARの可能性を感じてXREAL社に入られたんですね。
ジョシュア:PCの次はスマートフォン、スマートフォンの次はVR・ARの空間コンピュティング……とテクノロジーの将来性を読みながら業界を渡り歩いてきました。6年ほど前からは、ARとスマートフォンが組み合わさることで未来が大きく変わると見込んでいたんです。
――MESONとXREALの事業内容についても教えていただけますか。
小林:空間コンピューティングの普及には、ユーザーが使いたいと思うハードウェアとユースケースの両方が必須です。その中で、ARグラスなどのハードウェアを開発しているのがXREAL社をはじめとする企業。一方でMESONは、その上に乗るソフトウェアやユースケースの開発を主な事業としています。
MESONでは、「まなざしを拡げる」というパーパスのもと、空間コンピューティング技術を活用して、これまで人々が捉えていた世界とは全く違う視点を与えるような提案をしています。例えば、スポーツ観戦のシーンでは応援観戦のアップデートに取り組みました。観客がARグラスを着用することで、グラスを通して見えるスタジアムの空間に選手への応援メッセージを書けるようにするというもので、実際の試合でも採用されました。
このように、空間コンピューティングを使った新しい体験や事業を他の企業の皆様と一緒に作っていくことがわれわれの役目です。
ジョシュア:これまでのデジタル世界では、3Dのコンテンツも2Dの画面の中だけで表現されてきました。これからのAR時代では、周りのものが全て「3D化」します。3Dの世界では自分の周囲360度すべての環境がデジタル化され、あらゆる方向でコミュニケーションをとりながら作業することが可能となります。
XREALはこうした「3Dの体験」を提供するために、技術を開発しています。5年前に「NrealLight(現XrealLight)」というデバイスを発表した際は、お客様からも「体験したことがない新しい体験でした」といったフィードバックをいただきました。
従来はコンテンツや体験が3Dで作られていても、スマートフォンなどの2D画面を通してしか見ることができず、新鮮さがありませんでした。しかし、ARグラスをかけて、目で直接見たり、ハンドトラッキングでコミュニケーションをとったりすることで、これまでにない体験ができる。
XREALは、こうした全く新しい3D体験を世界中の皆さんに紹介することをミッションとしています。そのためにもまずは「これが未来のARなのか」と分かる、使いやすいハードウェアの開発を全力で行っています。加えて、素晴らしいコンテンツが生み出されるように、世界中の企業および開発者のための開発ツールを提供できるようにも努力しています。
小林:ユーザーと開発者をつなぐことにも力を入れていますよね。
ジョシュア:そうですね。今AR領域に不足しているのは「コンテンツ」だと思います。XREALは映画やテレビなどの映像コンテンツを3D化して紹介しましたが、これはあくまでも第一歩。今後、6DoFやハンドトラッキングなどの空間認識技術を活用したARならではのコンテンツが求められるようになっていくはずです。
これは、XREAL1社でできることではなく、世界中の開発者のアイデアが必要です。なので、開発者が快適にアイデアを実現できる環境を整えたいと考えています。
■空間コンピューティングのこれまでとこれから
――「空間コンピューティング」というワードが世の中に登場してから今まで、どういった普及・変化の流れをたどってきたのでしょうか?
小林:学術的には、コンピューティングの進化の順序として、「パーソナルコンサルティング」「モバイルコンピューティング」に次に来る世界が「スペーシャル(空間)コンピューティング」だと言われてきました。
ジョシュア:その中で、ARグラスを開発する Magic Leap(マジックリープ)社が「スペーシャルコンピューティング」の会社として2012年に設立されたのが空間コンピューティングというワードが注目されたきっかけだったかと。
小林:たしかにそうですね。その後、2019年に米国で開催されたAWE(Appliance&electronics World Expo)で「これからは空間コンピューティングの時代だ」と大きく宣言されたのをよく覚えています。そのタイミングで、XREALのXREAL Lightの価格なども公開されましたよね。
ジョシュア:はい。そしてその後、AppleがApple Vision Proを発表し、空間コンピューティングという言葉がさらに広まりました。
未来を描いたSF映画では、PCなどのデバイスを使わずにホログラムを直接手で操作していますよね。皆さんが想像するその未来こそ、まさしく空間コンピューティングだと言えます。
――空間コンピューティングの世界に向かっていくことが宣言されて、デバイスも登場しましたが、その後の動きは?
小林:直近ではエンタープライズでの活用が盛んになってきており、例えば従業員の研修やリモートワークツールとしての活用が増えています。Appleの発表によると、フォーチュン 500企業の約50%がApple Vision Proを導入して活用しているそうです。※注
一方でコンシューマー視点で考えると、デバイス購入のハードルはまだ高い。現状は特定の場所でデバイスを借りて使うのが主流になっています。今後はデバイスがさらに安価に、重量も軽くなることでコンシューマーの手に取りやすくなり、さらにユースケースが増えていくのではないでしょうか。
その点、XREALが発表したデバイスは普通の眼鏡とほぼ同じ感覚で装着でき、金額も499ドルと従来のデバイスより安かったので大きな衝撃を受けました。多くのコンシューマーへの普及が見込めますよね。
ジョシュア:そうですね。XREALとしてはユーザーが日常24時間つけても負担にならないデバイスを目指しているので、そのための軽さや薄さ、長時間使えるバッテリーを実現する技術を追求しています。
――現在、どういったユースケースがあり、どういった分野での活用可能性が見えているのでしょうか?
ジョシュア:小中学校など、教育の中での活用は効果が高いと聞いています。ARグラスをかけることで、例えば科学の授業では惑星を実際に見ながら学ぶことができる。
また、博物館や文化遺跡などの観光スポットでは、昔の風景をARで再現するといった活用もされています。
その他にも、物流倉庫の中でのナビゲーションや、建築デザインの提案にも効果的に使われています。
小林:デバイスが使いやすくなったことはもちろん、それだけ多くの空間コンピューター向けのソフトウェアが開発されているんですね。
ジョシュア:最近では、AR企業だけでなく、スマートフォンアプリやゲームの開発企業も当社のデバイスを購入されており、「このアイデアを実現するにはどんなツールが必要か」といった問い合わせも多くなりました。
■MESONがエバンジェリストに就任、2社で目指す未来
――この度、MESONはXREAL社のエバンジェリストに就任しましたがその背景は?
小林:実はMESONは2019年10月に初代XREALエバンジェリストに就任しており、当時出ていたARグラスを活用したユースケース開発に取り組んでいました。なので、今回は2度目の就任なんです。そういえば、どうやってMESONにたどり着いたんですか?
ジョシュア:5年前、AR専門で開発をしている、かつ技術の高い企業を探してMESONにたどり着きました。デバイスが出る前にはテストが必要ですし、デモのためのコンテンツ開発も必要です。普通のソフトウェア開発会社では、このスピードが不足しがちなのですが、MESONはテストやコンテンツ開発に積極的に協力してくれた上に、的確なフィードバックを返してくれました。
また、デバイスを発表する際は、開発者に向けてSDKの説明も必要です。MESONはあらゆる技術に精通しており、他の開発者の先生としてリードしてくれたので、非常に心強かった。今回もその辺りを期待して、今回もエバンジェリストのオファーをしました。
小林:ありがとうございます。前回のエバンジェリスト就任時は、MESON主宰のイベント「ARISE」でデバイスを紹介したり、AWEやXR総合展といったイベントに一緒に出展してデバイスの魅力を伝えるという取り組みをしましたね。
空間コンピューティングの普及のためには、ハードウェアとユースケース両方の訴求が必要だと考えているので、こういった連携はMESONとしても非常に嬉しいです。
――2024年は、2社の協業によってどのような取り組みを予定しているのでしょうか。
ジョシュア:直近で「XREAL Air 2 Ultra」という新たなデバイスを発表したので、まずはこの普及に努めていきます。
また、XREALは「Beam Pro」というAR専用のデバイスも開発しました。このデバイスには3Dカメラがついていて、3Dの映像を撮影することもできます。
以前は、ARグラスと携帯電話(スマートフォン)を接続してARコンテンツを実現していました。しかし、スマートフォンを使用すると、AR体験中にもメッセージが届くなど集中を阻害されます。また、ARグラスと同じ数のスマートフォンを用意しなければならないのは金額的な負担も大きい。その点、Beam ProはリソースをARのみに絞ったAR専用のデバイスになっているので、セットで使いやすくなっています。
従来の空間コンピューティングの体験から大きく進化し、新しい市場が期待できるので、新しいコンテンツも必要です。MESONが持つ最先端の技術によって、さまざまなコンテンツを開発することで、他の企業の発見やアイデアにつながるのではないかと考えています。
小林:XREALさんがクライアント企業から「こういうものを作りたい」と相談を受けることもあるそうなので、そういった企業とMESONが組んで本格的に開発を進めることも視野に入れています。
また、開発者がより開発しやすいSDKを提供するために、僕らMESONが先行して開発しながらフィードバックや議論を重ねています。
夏ごろにはAir 2 Ultraを活用したい企業様向けのイベントも予定しています。デバイスの使いやすさや活用可能性を紹介しつつ、企業からのフィードバックも得る場になる予定です。
――今後、「XREAL Air 2 Ultra」を活用してこんなユースケースが創出できそうだという展望などはありますか?
小林:これまでは、エンタメ的な軸での「体験したら面白かった」というユースケースが多かったんですね。今後は課題解決やニーズが起点となって導入する、いわゆる「社会実装」的なユースケースを増やしたいと考えています。
そのために、MESONがオールカスタマイズで開発するだけでは広がりが小さいので、さまざまな企業が使えるパッケージ型ソリューションを作ろうと動いているところです。
その中でも、ジョシュアさんがおっしゃったように観光地など「屋外」でのユースケースを探りたいと考えています。「XREAL Air 2 Ultra」はグラス型で、従来のヘッドセット型と違って視界が遮断されないため、屋外で使っても安全ですし、手軽に活用できるのが特徴です。
屋外での空間コンピューティングのユースケースを探っていくのは意義があるのではないかと思います。また、付け外しも簡単なので、企業にデバイスを置いておき、誰でも借りて使える形も想定できるかなと思います。
ジョシュア:3、4年前は、当社のデバイスを使ってPoCやデモアプリを開発する企業さんが多かったのですが、徐々に実際の業務などビジネスの現場での活用が増えています。
それに伴い、当社への問い合わせも具体的になってきている。漠然と「どうやったらいいですか」という質問から、「こういう条件でこれを実現できる技術を紹介してほしい」といった、具体的な相談に変化しているんですね。Beam Proも、BtoB企業のお客様から「携帯電話の管理は大変なので、専用のデバイスが欲しい」というニーズがあって実現したんです。
実用的な活用がこれからもっと増えていくような機運を感じています。
――最後に、空間コンピューティングのこれからが気になっている読者に向けて、メッセージをお願いします。
小林:ここ数年で空間コンピューティング用のデバイスやアプリケーションが登場し、ある程度未来が「視えた」と思っている方もいるかもしれません。
しかし、僕は今視えている範囲はまだ狭いと思っています。というのも、iPhoneが発売された当初に、UberやInstagramを想像できた人はいないと思うんです。空間コンピューティングによって人々の生活が広がる余地はまだまだ大きいはず。
そういった空間コンピューティングのまだ見ぬ可能性を見つけるためには、最新のデバイスに触れ、技術を試すことが有用です。そのためにMESONもユースケースを提案していきますが、さまざまな企業の多様なアセットと組み合わせることでさらに可能性が広がると思います。
今回の記事を読んで、「XREAL Air 2 Ultra」を使って挑戦をしてみたいと感じた企業の皆様、ぜひ一緒に空間コンピューティングの新しい体験を見つけていきましょう。
ジョシュア:ARデバイスの営業活動をする中で、5、6年前は「そもそもARってなんですか?」という質問が多かったんです。現在は「いつ実用化されますか」といった前のめりな質問が増えてきました。ARに対する期待が大きくなっているのを感じます。
その中でXREALのARグラスは世界的に量産され、日本では約9割に迫るシェア(2023. Q4 by IDC Japan report)を持っています。入口として、皆さんが最初に空間コンピューティングを体験するのはXREALのデバイスを通してということになるかもしれません。
XREALとしては、皆さんが一日でも早く日常的にARグラスを活用できるように責任を持って技術を開発していきます。そして、本物のAR体験にはデバイスだけでなくアプリケーションやコンテンツが重要です。日本の企業・開発者と協力して価値あるコンテンツを提供できるように努力しています。
毎年新しい体験ができるように進化を続けていきますので、「XREAL Air 2 Ultra」を試しながら、この先の動向にも期待していただけたらと思います。
※注 参照:More Than 50% Of Fortune 100 Companies Are Already Using Apple Vision Pro( https://www.uploadvr.com/most-fortune-100-companies-using-apple-vision-pro/)
▼「XREAL Air 2 Ultra」詳細
https://jp.shop.xreal.com/products/xreal-air-2-ultra
▼「XREAL BEAM Pro」詳細
https://www.xreal.com/jp/beampro
▼XREAL公式サイト
https://www.xreal.com/jp/
空間コンピューティングの活用やARプロダクト制作についてのご相談は下記より承っております。お気軽にご相談くださいませ。