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NianticとMESONのミッションがつながった。川島氏と語るIP×空間コンピューティングの未来

August 7, 2024

NianticとMESONのミッションがつながった。川島氏と語るIP×空間コンピューティングの未来

2024年4月、MESONが提供するApple Vision Pro向けアプリ「SunnyTune」と、Niantic社の「Peridot」がコラボレーション。SunnyTuneの空間上にPeridotのキャラクターが登場し、天気によってさまざまな姿を見せてくれます。この記事では、Niantic 副社長の川島優志さんとMESON代表 小林の対談を通して、コラボレーションの背景や、2社が考える空間コンピューティングの未来をお届けします。 


■Peridot×SunnyTuneコラボの背景 

Niantic 副社長 川島優志



――まず、Nianticの事業内容について伺えますか。 

川島:NianticはGoogleの社内スタートアップとして始まり、2015年に独立しました。私は創業時からのメンバーで、現在は副社長を務めています。 

Nianticの創業者のジョン・ハンケは、実はGoogle Earthの前身Keyholeを立ち上げたメンバーです。Google Earthがいわゆる「PCのスクリーンの前で世界を旅できるソフト」である一方で、「実際にその場所に足を運ぶきっかけを技術で作れないか」と考えて立ち上げたのがNianticでした。 

そこで最初に手がけたのは『Field Trip』というアプリ。これは外を歩いている時に、その場所の歴史などの情報をプッシュ通知してくれるというものです。これをもっと多くの人に届けるには興味を惹く要素が必要だと考え、拡張現実ゲーム『Ingress』や『Pokémon GO』の世界につながっていきました。 

その後、「ARファースト」を掲げる新しい試みにもチャレンジしていきます。それが今回SunnyTuneとコラボしたARペットの『Peridot』です。『Pokémon GO』もARアプリの先駆けとして紹介されることが多く、優れたAR技術を使って現実の世界にポケモンをかなり自然な形で登場させることができます。ただ、今日現在では『Pokémon GO』はARを使うプレイを中心としてゲームを設計しておらず、多くの場合はARを使わずにゲームをお楽しみいただくことができます。 

一方Peridotは、AR自体がゲームプレイの肝になります。これを未来のデジタルペットのスタンダードに育てていきたいと考えています。その過程で、同じ方向を向いているMESONさんとこうやってコラボレーションする機会が生まれたのはうれしいですね。 


――今回、MESONのApple Vision Pro向けアプリ「SunnyTune」に、Peridotのキャラクターが登場するというコラボが実現しました。コラボ誕生のきっかけについてお聞かせください。 

川島:Xreal Airが発売されたころ、デベロッパー向けに紹介する小規模なイベントをふらっと見に行ったんですよ。そこでMCをしていた小林さんを見て「MC上手いし、技術のことをよく知っているな」と驚いたのが最初の出会いでした。 

小林:びっくりしましたよ。Apple Vision Pro発売時には2人ともアメリカの店舗まで行っていたので、二人でFaceTimeをつないで通話してみたりしましたね。 

川島:そうでしたね。Peridotにおいても、スマホをARのインターフェースとして使うのは通過点でしかない。どこかでApple Vision ProのようなヘッドマウントディスプレイやARグラスといった、自然にARを活用できるデバイスにシフトすることを見据えていました。  

PeridotをApple Vision Proでも楽しめるようにしたらどうだろうと考えていた時に、MESONがSunnyTuneというアプリを開発しようとしていることを知り、コラボという形でご一緒することになりました。スマホのウィジェットのように、Apple Vision Proを使用している間は常に空間に存在しているアプリという着想もいいなと思いました。 


小林:SunnyTuneは天気を体感できるという機能を提供しています。そこに足りなかったのが愛着や「引き」となる要素。先ほどの『Field Trip』の発想にゲーム要素を足して『Pokémon GO』へと進化していった話とも通ずると思うのですが、Peridotの可愛いペットに愛着をもってもらうことで、より多くのユーザーに届けられる。その先で、SunnyTuneの機能の便利さも感じてもらえると思いました。 

川島:Peridotはふと目を向けたらそこにいて、触ったり愛でたりできる存在。いつでもそばに置いておけるSunnyTuneとは親和性が高かったですね。 


■開発の過程で実感した、クリエイターたちのシナジー  

――今回のコラボにあたって、開発の過程ではどのようなことを感じましたか? 

川島:IPを持つわれわれとしては、Peridotをぞんざいには扱ってほしくないわけですが、MESONのクリエイターさんは丁寧にリスペクトをもって取り組んでくれたので安心できました。 

技術的な面でも、センスの高さを感じました。例えばPeridotのモーションひとつひとつに関しても、こちらが提供したものに寄り添いながら、自然な動きを生み出してくれた。  

MESON代表 小林佑樹 

小林:SunnyTune自体、機械的なものにしたくなかったんです。雨の音も、繰り返し流れるのではなく自然の雨音のようにランダムに聞こえるようにしています。Peridotも本当にそこで生きているように見えることにこだわって作りました。 
 

川島:デジタルなものに愛着を感じることは、簡単ではないんです。「不気味の谷」という現象があって、3Dグラフィックでどんなに人間を上手く表現しても、ほんのちょっと不自然に見えると一瞬で「機械」にしか見えなくなってしまう。  

Peridotに関しても、本当にそこにいるかのように愛着を深め続けてもらうことは簡単ではありません。MESONさんがすごくそこを意識してくれて、技術的にも実現してくれたのはありがたかったです。大げさかもしれませんが、Peridotを愛そうとしてくれたというかクリエイターとしていいものを作ることを大事にしてくれたなという印象です。 
 

小林MESONのデザイナーとエンジニアも、Nianticのクリエイターさんたちがそこを大事にしていることをくみ取って尊重したいと考えていましたし、シンパシーを感じたと思います。 


――コラボ後の反響はいかがでしたか? 

小林:現在4000ダウンロードを超え、Apple Vision Proのアプリとしては多くの人に使っていただいていますね。実際にSunny Tuneの中でPeridotが動いている様子を録画し、XやReddit(掲示板型サイト)にアップしているユーザーも見られました。 

川島:うれしかったのは、アニメ『電脳コイル』の磯光雄監督が好意的に感じてくれたことですね。『電脳コイル』は拡張現実の未来を見事に描いていて、当社の創業者のジョン・ハンケも好きなアニメに挙げています。作品に登場する電脳ペットの「デンスケ」こそ、Peridotが実現したい将来のペットのあり方なんです。なので、アプリを体験した磯さんが「これはデンスケじゃないか」と言ってくれたのが僕はうれしくて。 

小林:デンスケとPeridotが並んでいたら面白いですね。  

MESONは、空間コンピューティングの未来を見据えたときに、デバイスを装着して見えている世界が現実なのかデジタルなのか判別がつかない・判別しなくていい世界が訪れると考えています。デジタル情報のペットも本物のように可愛がり、いなくなったら悲しむ。 

『電脳コイル』はまさにそういった世界が描かれているので、磯さんに評価していただけたことは僕もうれしかったです。 


――今回のコラボに限らず、IPと空間コンピューティングの可能性についてどのようにお考えですか。  

川島空間コンピューティングが一般的になったら、生活空間がチャネルになるので、IPが登場する場所も変わってくるし、ユーザーが触れる時間も圧倒的に長くなると思います。僕自身、ヘッドマウントディスプレイを着けてPeridotと触れ合っていると癒されるし、時間が溶けるんですよ。IPの可能性は無限に広がると思います。 

その中でNianticとしては、Peridotを通して未来のペットのスタンダードを作りたいと考えています。ペットを飼うことに対して動物愛護の観点からネガティブな意見があったり、アレルギーの問題があったりしますが、Peridotはそういった課題も乗り越えられる。また、人間は社会的な生き物なので、ひとりでは孤独や寂しさを抱えてしまう。そこに寄り添う存在が空間コンピューティングの世界にも必要で、Peridotはそんな存在になれるかなと思います。 

小林:その話はすごく共感できますね。僕らが空間コンピューティングを使って取り組んでいる活動は、物質的な所有からの解放とも言える。SunnyTuneはデジタルインテリアというカテゴリで、リアルなインテリアを使わなくてもいい世界を体現しています。アトム(現実)からビット(仮想)へ移行して、リアルな「物体」を所有せずに普通に生活できる世界を作ることが、僕らの活動の本質なのかもしれません。 


■これからの空間コンピューティングの未来 

 

――未来の空間コンピューティングのあり方について、お二人はどのような見解を持っていますか。 

川島:Apple Vision ProやMeta Quest 3といった新しいヘッドマウントディスプレイは、体験として満足いくクオリティを実現しています。いわゆる「Mixed Reality」と言われる、デバイスの外部の情報をデジタル化して映し出す技術が非常に優れていて、実際に装着したまま普通に生活ができるレベルです。 

今後は価格もリーズナブルになって多くの人が普通に手にするデバイスになっていくのではないかと思うんです。それに先駆けてPeridotもスマホから空間コンピューティングデバイス向けへと開発をシフトしました。 

小林:Mixed Realityの技術が成熟しつつある機会を逃さないという発想は、たしかに納得できます。一方で、ユーザー数を追い求めるならまだまだスマホ向けのコンテンツが伸びるはず。御社では、スマホと空間コンピューティングそれぞれのリソースをどのように考えていますか? 

川島:スマホがメインストリームの時代はしばらく続くので、多くの人にリーチするスマホ向けのコンテンツが大事であることは前提です。ただ、将来的に向かうのは空間コンピューティングが主流の世界だと思うんです。 

僕は今、サンフランシスコまで電車通勤しているのですが、車内でApple Vision Proを付けていますし、Ray-Ban Metaというスマートグラスを日常的に着けて過ごしています。2~3年前は自分で改造したデバイスを着けて通勤していましたが、もちろんそんな人はおらず不思議そうな視線を感じました。でも、今の周りの目は「ニュースで見たことあるし、こういうデバイスがあるんだな」という感覚。少しずつ市民権を得ています。 

Ray-Ban Metaは特に、見た目も着け心地も自然で、普通の人が使ってもいいレベルのプロダクトになってきた。Kindleで言えばPaperwhiteのような存在ですね。 

なので、現実とデジタルが重なる空間コンピューティングが、当たり前になる未来が必ず訪れる。その時、Nianticとしてはメタバースの世界に留まるのではなく、やはり人を外の世界に導いたり、人と人を繋いだりすることを目指したいですね。例えば、Peridotが新しい散歩コースを提案してくれたり、Peridotを連れた人同士が出会ってあいさつしたりという世界が作れるかもしれません。 

小林:僕らも、バーチャルの世界より、現実世界をいかに広げるかが重要だと考えています。MESONのパーパスは「まなざしを拡げる」です。現実世界にデジタルの情報を加えることで、同じ場所でも違う見え方ができて、それによって新しい発見が生まれる。ある意味人生の広がりが生まれるのではないかと考えているんです。 

MESONもNianticもそういう世界を目指していて、Nianticさんの場合はその一つの手段が「ゲーム」なのかなと思うのですが、いかがですか。 
 

川島:そうですね。社会のあらゆる問題って、真正面から真面目に取り組むだけだとうまくいかないと思うんですよ。Nianticは、世界を良くしたくてどうしたらいいか考えて「とにかく人を外に出す」ことを目指し始めた。一見回り道のようですが、ゲームで外を歩くことで、日常を楽しくできたり、世界を新しい視点で見たりできます。そういうきっかけを作ることで、世界がちょっと良い方向に動けばいいと思うんです。 


――最後に、Nianticさんが今後、MESONに期待することをお聞かせください。  

川島:空間コンピューティングは、長年話題になっているものの、なかなかメインストリームにならない状況が続いていますよね。まだ、将来これがスマホに置き換わるとは誰も想像していない。 

イノベーションは魔法のように起こるわけではありません。天秤の片方の皿に盛られた塩の山から、もう片方の皿に一粒一粒移すような作業だと思うんです。そしていつかぐわっと天秤が傾くときが来て、皆が世界が変わってしまったことに気づく。 

だけど、それまでは皆、愚直に塩を移すやつを馬鹿にするんです。その馬鹿にされるフェーズを僕らは生きている。ひとりだと寂しいけど、MESONさんのような仲間がいると頑張れたりします。楽しみながら、くじけずに、未来を変えるべく一緒に歩んでいけたらと思います。 

小林:ありがとうございます。イノベーションにもいろいろな方向がありますが、今日改めてNianticさんと同じ方向を向いていると感じて、今後もご一緒できたらと思いました。次のコラボレーションも動き始めているので、これからもよろしくお願いします。 

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